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バジュカ
ブコヴィナとモルダヴィアの境界線をなしているカルパティア山脈の麓(ふもと)に広がるルーマニアの一帯は、ここ数日来前代未聞の大事件で恐慌を来たしていた。金持ち連中からは恐れられ平民からは神のごとくに崇められている名うての窃盗団の首領ミカレフが、夜陰に乗じてグモラの女子修道院に押し入って略奪を縦(ほしいまま)にしたのである。歴史的な宝物や聖櫃(せいひつ)のほか現金、有価証券や古文書など、移動可能なものは一切合財持ち去られてしまった。政府はもう10年も前から彼を追い続けていたが捕えることができずにいた。それというのも農民たちはこぞって彼の味方で、誰に頼まれたわけでもないのに監視役を務めていて、危険を察知するたびに何らかの手段を使って彼にそのことを知らせていたからであった。
彼は一度ならず軍隊と正面切って交戦したこともあったが、頭から血を流しながら敗走したのは軍の兵士たちの方であった。
今回の事件が勃発したときも、グモラの尼僧院長は官憲に助けを求めたが徒爾(とじ)に終わった。彼らはこれといった手掛かりを何一つ見つけることができず、窃盗団の隠れ家も略奪品の行方も突き止めることができなかったのである。そんなある夜、尼僧院長が修道院の後援者である特権貴族のヴォイネスキュの前で今度の不幸を託(かこ)っていると、程遠からぬ山村に住む農民の娘が院長に面会を求めてきた。 「泥棒たちのことを何か知っているのかもしれません」と尼僧院長が言った、「お通ししなさい」 若い女性が入ってきた。稠密な刺繍を施した丈の長いスリップの上に短い羊の毛皮のジャケットを引っ掛けただけの装いだった。顔の造作は誇りかで 高貴な陰影があった。意志的な黒い瞳には焔(ほむら)が宿り、はじけるような肉付きのみごとな胸部.....それはカルパティア山中に住む見苦しい農婦などではなく、ローマの墳墓からでも這い出してきた女帝かと疑われた。確かに彼女には、ローマの軍隊がその鷲(わし)をあしらった軍旗をこの地方ではじめて翻(はためか)せて陣営を張った史実の生き証人のような趣が漂っていた。 「わたしたちに知らせたいことがあってきたんでしょう?」と、跪いて長いガウンの裾に接吻する若い農婦に向かって尼僧院長が訊ねた。 「バジュカ・ペトリーノと申します」と言った声は柔和であったが面差しには凛呼とした落ち着きが見られた。「わたくしは寡婦でございます。ご多分に漏れずわたくしもミカレフの所業に喝采を送っておりました。軍隊を敵に回して戦う彼にどんな協力も惜しまないつもりでおりました。でもそれは昔の話でございます。あの男が教会の神聖を汚し、畏れ多くも聖櫃さへ盗み去った今となっては、ひとりのキリスト教徒の女として、彼という人間も、その生き様も、共に唾棄いたします。あの男を法の前に引きずり出したいのでございます」 「どうやって?彼のことをよく知ってらっしゃるの?」と尼僧院長が訊いた。 「いいえ。一度も会ったことも言葉を交わしたこともありません。でもわたくしは今すぐにでもあの男をひっ捕まえてあなたに差し出すことができるのです」 「そのようだね」とヴォイネスキュが笑顔で言った。 「どんな報酬がご希望?」と尼僧院長が訊ねた。 「わたくしには、.....新しい羊の皮のジャケットをいただければ結構です」 「では、こちらとしてはどんな支援をしてさしあげればいいのでしょう?」 「手助けは無用です。わたくしはあの男をあなた様に引き渡してみせましょう。わたくしにお任せください」 美しい寡婦にチャンスが巡って来た。豪農のジェレミ・ガレスキュが古式にのっとってふたりの仲人を彼女の許へ遣(よこ)して結婚を申し入れてきたのである。彼女はふたりが携えてきたブランデーの受け取りを拒否しただけではなかった。それだけでも正式な破談を意味するのだが、彼女はとどめの暴言を吐いた。「ガレスキュさんには何の敵意も持っていませんから、昔のわたしなら喜んでお受けしていたところですわ。でも運の悪いことに、今のわたくしは理想を高くかかげています。わたくしの誠(まこと)を捧げてもいいと思う殿方は、この世でたったひとり、ミカレフしかおりません。二回目の結婚をするとしたら、お相手は英雄でなくてはいやです」 バジュカがこうした言葉を言い連ねたとき、それがミカレフの耳に届くことを計算していたのである。果たせるかな、程なくして赤いスカーフで頬っ被りをした蓬髪の目つきの鋭い山姥(やまんば)のような老婆がやってきて、悪名高い泥棒がその日の夜彼女に会いにくると小声で告げたのであった。 夜警が吹き鳴らす深夜の12時を告げるラッパの音が聞こえたとき、バジュカの家の窓を叩く音がした。窓を開けるとすらりとした美しい男が窓越しに入ってきた。 カルパティアの華美な民族衣装を着て、腰に短剣とピストルを携え、手にはマスケット銃が握られていた。若い寡婦は賛嘆の眼差しで男を見た。一目惚れだった。一瞬彼女は彼を絞首台に送ると誓った自分を責めた。しかしそれは一瞬のことであった。 「あんた、俺に御の字だっていうじゃないか」 と、惚れ々々した目線を彼女のすばらしい姿態に這わせながら泥棒が言った。 「だからこうしてきてやったんだ」 「あんたがミカレフ?」 「俺たちをひっ捕まえようという連中がそこらじゅうにうじょうじょいるんだ。そんな中を一体ほかのだれがあんたに会いにのこのこやって来れると言うんだ」 彼はマスケット銃を部屋の隅に立て掛け、炉辺の椅子に腰をおろして膝のうえにバジュカを引き寄せた。「かわいいじゃないか。しかもそのことをお前は意識している。こう言ったのは俺がはじめてじゃないだろう。図星だな?」 「誰にそう言ってもらうよりあなたに言われるとうれしいわ」 彼女が従順(おとな)しく男の愛撫に身をまかせている間聞こえていたのはネズミが忙(せわ)しくものを齧る音だけだった。 泥棒は美しい寡婦のキスを心行くまで堪能すると、胸の内隠しから燦爛たる珊瑚のネックレスを二連取り出し、得意げな笑みを浮かべて彼女に差し出した。 彼女はその装飾品の贈り物に子供のように喜んだ。次いで高価なイアリングを貰うと有頂天になって頬を紅潮させ、壁に吊り下げた鏡の前へ朗らかに身を翻して飛んで行って自分の姿を覗き込んだ。その間に男は服を脱いで上半身裸になり、武器を脇に置いて身を横たえた。 「似合ってる?」男の目の前に戻ってきた彼女が訊いた。 「君はそんなものを身に付けなくったって男を悩殺できるじゃないか」 「わたしのことを好きっておっしゃってくださってるのかしら?」とわざとらしく言って、柔肌のなまめかしい両の腕(かいな)を男の首っ玉に回した。男は彼女を見つめて頷くばかりであった。 食事の準備が整い、ふたりはテーブルに就いた。 ミカレフは手柄話や危ない目にあったことなどを語り、彼女は目を輝かせてそれに聞き入った。 「でもどうして修道院なんかを略奪したの?」と彼女が言葉を挟んだ。「神とキリストの前でどんな言い訳をなさるお積り?」 「神の前でだって?君は神が儀式用の聖櫃なんぞ大事に思っているとでも言うつもりか?神は金銀財宝になんか目をくれやしないさ。神は人間の行いを見ているんだ。人間の心の中を覗き込んで審判を下すのさ。神はお祈りやお香なんぞにだまされはしない。牧師や修道士や尼僧なんていったい何だ、あいつらは?ただの嘘つきと偽善家じゃないか。やつらは『神の国』なぞと甘言を弄して俺たちをだまし、その一方で抜け目なくこの世の富を独り占めにしてるんだ。俺たちが飢えに苦しみ住むところもなく寒さに凍えているというときに、やつらは我々を犠牲にして肥え太り、俺たちに向かっては悪いことをすれば地獄に落ちるなぞと説教しながら、やつら自身はこの世のありとあらゆる悪徳に身を染めていやがるんだ」 またしてもバジュカの胸にふと後悔の念が萌した。一瞬迷ったが決意を翻す一歩手前で踏み止まった。 「それはそうと」と泥棒が言葉を継いだ。「俺にはぐずぐずしている時間がない。仲人を君の許へ送り付けたり指輪を交換したり法王の祝福を受けたりしている暇がないんだ。君は神の前で俺の妻になる。それ以外に何が必要なのだ?君は俺の妻になり永遠にそうであり続けるのだ」 「わたしが承諾すればの話ですわ」とバジュカは挑むように応えた。相手がミカレフであれ他の誰であれ、正式な求婚の手続き踏んでもいない男に心の誠(まこと)を捧げることは彼女のプライドが許さなかった。それは通りすがりのひとに摘み取られる野バラのように、突然乱暴に拉致されることと同じように思えるのであった。 「毎晩その窓の外へ寝に通って来いとでも言いたいのか?」と泥棒が笑いながら言った。「セレナーデを歌って欲しいのか?ホラ(訳注:ルーマニアの民族舞踊)の相手をして欲しいのか?それとも何ならヤコブと妻のラケルに倣(なら)って7年間君に奉仕しようか?」 「そんなことして欲しくはありませんわ」と彼女は苛立ちを押し殺して言った。「あなたに自負心がおありのようにわたくしにも自負心というものがあります。誠を差し上げることはできても、誠を盗み取られるのは我慢ができません」 突然ミカレフは立ち上がり、笑いながら両腕で軽々と彼女を抱き上げた。 「さあ、君の操(みさお)をどうやって守り通すつもりだ?」 力ではかなわない。抵抗しなくてはという気持ちを彼女は一笑して退けた。彼女が望みさえすれば、次の瞬間、男は彼女に組み敷かれることがわかっていたからである。そして今こそ彼女はそれを望んだ。意を決したのである。 「どうだ、俺のものになる気になったか?」 「ええ、あなたの妻になりますわ」との返事に、ミカレフは彼女を床に下ろした。彼女は落ち着き払って乱れた髪と刺繍入りのスリップを直し、ショートジャケットの黒い子羊のウールを両手で撫でた。 「来て」と彼女は男に言い、ローマの墳墓のなかに吊るされているランプのような小さいどんよりした灯(あかり)を手にすると、男の前に立って寝室へ向かった。ミカレフは逸(はや)る心を押し隠しながら彼女の後に従った。そして、彼女が前もって練り上げた計画通り、彼は揚げ床を踏んだ瞬間、声にならない悲鳴とともに奈落の底へ落ちていった。 「いい気味だわ!これでもまだわたしを力尽くでものにしようと言うの?あなたはもうわたしの奴隷なのよ。あなたを焼くなり煮るなり、わたしの自由だわ」 「この俺を破滅させる気か?」地底から泥棒の声が聞こえてきた。 「この国からあなたを抹殺するとわたしは誓ったのよ。わたしはその言葉を反故にはしないわ」 「人民の敵にこの俺を引き渡すと言うのか?」 「そうよ、あなたが絞首刑に処せられる姿を早く見たいものだわ」 彼女は居間に戻ると男のピストルを一丁取り上げ、開いた窓の外へ発砲した。 程なくして憲兵の一団が雪崩(なだ)れ込んで来て男を鎖で縛り上げた。 ミカレフが絞首台に上らされたとき、バジュカは牛車(うしぐるま)上に立ち上がって「ここよ」と言うように彼に向かって頷いた。彼女は尼僧院長から貰った真新しい羊の皮のジャケットを着て、ミカレフから贈られた珊瑚のネックレスとイアリングを着けていた。その足元には金貨の詰まったふたつの袋。政府がミカレフの首に掛けていた懸賞金だった。 【アダルトグッズのコーナー】 2.1万円以上お買い上げのお客様全員にアダルトビデオをプレゼント中!! 3.さらに安心をお届け (商品の中身が分からない完全二重包装だから安全・安心!!!) |
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